背景
主力は、産業機械や医療機器に組み込まれる精密な切削部品です。試作から量産まで一貫して引き受けられる技術が評価され、長く続く取引先を数多く持っています。本社工場が量産品を、第二工場が試作と少量の品を主に受け持っています。
一方で、材料費と人件費の上昇を価格に移しきれず、営業利益率は3.1%まで下がっていました。受注は減っていないのに、利益だけが薄くなっていく。社内には、その理由を説明できる数字がありませんでした。
2023年の春、社長は初めての中期経営計画をつくると決め、当社にご相談をいただきました。最初の打ち合わせで伺ったのは、「計画書は作れると思う。ただ、作った計画が工場で使われる気がしない」という言葉です。私たちはこの一言を、支援の出発点に置きました。
課題
最初の2か月で、経営陣と2つの工場の課長以上、営業部の全員から話を聞きました。あわせて、過去3期分の受注と原価のデータを、製品ごとに並べ直しています。見えてきたのは、次の3つです。
- 工場と製品群ごとの損益が、
年に一度しか分からない 全社の損益は月次で出ていましたが、工場別・製品群別の損益は、決算の後にまとめる資料の中にしかありませんでした。どの注文で利益が出ているのかを、期の途中で確かめる手段がなかったのです。 - 見積に、段取り替えと作り直しの時間が入っていない見積は、営業部が過去の単価を基準に作っていました。少量の注文ほど段取り替えの時間がかさみますが、その時間も、不良による作り直しも、原価の外に置かれていました。
- 工場の目標が、
利益とつながっていない 工場の目標は、稼働率と納期遵守率でした。忙しいほど評価される仕組みのため、利益の出ない注文を現場が見分ける理由がありませんでした。
計画に書く「営業利益率」と、工場の人が毎日見ている数字が、一本の線でつながっていない。これが根にある問題でした。計画の文章を磨く前に、まずこの線を引くことから始めると、社長と合意しました。
取り組み
1年目で数字の土台と計画をつくり、2年目は月次の会議で計画を動かしながら、会議の進め方を社内へ引き継ぎました。
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2023年4月〜5月
課題を整理し、 成功の定義を決める 聞き取りとデータの分析をもとに、「2年で営業利益率を倍にする」ことを経営陣と合意しました。あわせて、工場ごとに毎月追う指標の候補を、この段階で仮に置いています。
工場の班長の方々には、「忙しいのに儲からない」と感じる注文を挙げていただきました。挙がった注文の多くは、その後の製品群別の試算でも、実際に赤字でした。
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2023年6月〜9月
製品群ごとの損益を、 月次で出す 経理と両工場の管理担当と一緒に、共通費を工場と製品群に割り振る決まりをつくりました。段取り替えの時間は工程ごとに記録用紙で集め、翌月の損益に反映しています。9月の会議で、初めて工場別・製品群別の損益が月次で並びました。
最も意見が分かれたのは、検査や設備保全といった両工場にまたがる部署の費用を、どう割り振るかでした。工場長どうしの議論が平行線になった点は、3つの案で試算を並べ、数字を見比べてから社長に決めていただいています。
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2023年10月〜2024年3月中期経営計画とKPIツリーをつくる
営業利益率を、製品群ごとの粗利、段取り替えの時間、作り直しの件数、見積の単価に分けて、KPIツリーにまとめました。工場ごとの月次の指標は、この木の枝の先に置いています。計画は2024年3月の取締役会で承認されました。
計画書は、取締役会でご判断いただく本編と、工場で使う1枚の指標表に分けています。工場の方が毎月手に取るのは、ほとんど後者です。
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2024年4月〜9月
月次の会議で、 計画を動かす 工場ごとの月次の会議に当社のコンサルタントが同席し、指標の動きを確かめて、翌月の打ち手を決めました。見積の決まりも改め、段取り替えの時間を単価に入れています。採算の合わない製品群については、営業担当と一緒に取引先への説明資料をつくり、単価の見直しをお願いしました。
会議は毎月、工場ごとに1時間です。前の月より悪くなった指標だけを取り上げ、原因、翌月の打ち手、その担当者を決めて終える形に絞りました。
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2024年10月〜2025年3月
会議の進行を、 工場長へ引き継ぐ 月次の会議は工場長が進め、当社は後ろの席で聞く形に切り替えました。指標の定義、集計の手順、数字が悪くなった時の判断の基準は、「月次会議の手引き」として文書に残しています。最終回では、2年間の数字の動きを取締役会でご報告しました。
成果
営業利益率は、支援前の2023年3月期の3.1%から、2025年3月期には6.4%になりました。売上高はほぼ横ばいで、伸びたのは利益の側です。
改善の内訳で最も大きかったのは、採算の合わない製品群の単価の見直しでした。次いで、段取り替えの時間の短縮と、作り直しの減少が続きます。どれも、工場ごとの月次の会議で毎月確かめてきた指標です。
単価の見直しをお願いした取引先の多くには、段取り替えの時間を示した説明資料をもとに、ご理解をいただけました。見積の決まりを改めてからは、少量の注文でも、かかる手間がきちんと単価に表れるようになっています。
数字以上に変わったのは、会議で交わされる言葉だと社長は話します。「この注文は受けるべきか」を、営業と工場が同じ表を見て話せるようになりました。支援を終えた2025年4月以降も、月次の会議は工場長の進行で続いています。
お客様の声
計画書の出来よりも、翌月の会議で何を話すかを一緒に考えてもらえたことが大きかったと思います。2年目の後半には、私が口を挟まなくても会議が回るようになっていました。
最初は、また本社の数字が一つ増えるだけだと思っていました。段取り替えの時間が、そのまま利益の数字に出るようになってから、ラインの見方が変わりました。
見積の決まりが変わってから、単価の相談に行くのが怖くなくなりました。段取り替えの時間という根拠があるので、取引先にも筋の通った説明ができます。
担当者より

朝倉 恒一代表取締役
最初の半年は、ほとんど数字の定義をそろえる仕事でした。共通費の割り振り方ひとつで、どちらの工場が黒字に見えるかが変わってしまうからです。地味な作業でしたが、ここで工場の皆さんに納得していただけたことが、2年目の会議の土台になりました。計画は、数字の定義が現場で共有されて初めて使われるものだと、改めて教えていただいた2年間でした。


