背景
県内を中心に、企業向けの定期配送と路線便を担う物流会社です。従業員1,200名のうち、約800名がドライバーとして働いています。人手の確保は長く経営の最優先の課題で、求人にかける費用は年々増えていました。
営業所は県内の各地にあり、長く所長の裁量で運営されてきました。現場の結束が強い反面、人の育て方や評価の付け方は、営業所ごとに少しずつ違っていました。
2024年4月からは、ドライバーの時間外労働に年間の上限が設けられました。残業代で手取りを支えてきた給与の組み立ては、そのままでは続けられません。「辞めない理由を、給与と評価の仕組みでつくりたい」。人事部長からのご相談は、この言葉から始まりました。
課題
最初の2か月で、すべての営業所を回りました。早朝の点呼に立ち会い、ドライバー、配車係、所長から話を聞いています。あわせて、過去2年分の退職者の面談記録を読み込みました。
- 等級が、
年齢と勤続年数でほぼ決まっている 大型やけん引の免許、危険物の資格、無事故の期間、新人への同乗指導。ドライバーの仕事の中身が、等級にも給与にも表れていませんでした。 - 評価の基準が、
所長ごとに違う 評価は年に一度、所長がシートに記入する形でした。基準を書いた文書はなく、コメント欄の多くは空欄です。同じ働きでも、営業所によって評価が変わっていました。 - 残業が減ると、
手取りが減る 基本給が低く、手当の多くが働いた時間に比例していました。上限に合わせて残業を減らすほど、ドライバーの手取りが減る組み立てです。
面談記録で多かった退職の理由は、「給与が低い」よりも「何をすれば上がるのか分からない」「所長によって扱いが違う」でした。辞めた人の多くは、入社3年以内です。給与の額より先に、上がり方の道筋が見えないことが問題だと考えました。
取り組み
新しい制度は2025年1月から運用を始めると決め、そこから逆算して月ごとの工程を組みました。
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2024年1月〜2月
全営業所で聞き取り、 成功の定義を決める 点呼への立ち会いと聞き取りから、課題を現場の言葉でまとめました。人事部と合意した成功の定義は、「新制度の運用1年目で、年間離職率を1桁台にする」です。
長く勤めているドライバーには、続けている理由も尋ねました。多かった答えは「所長がよく見てくれている」です。この目配りを、所長の人柄に頼らずに再現できる仕組みにすることを、制度づくりの軸に据えました。
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2024年3月〜5月ドライバー職の等級をつくり直す
等級を「運転できる車両と荷物」「安全の記録」「後輩の指導」の3つの軸で定義し、5段階に整理しました。各段階で何ができればよいかは、所長とベテランのドライバーと一緒に、現場の言葉で書いています。
たとえば、新人への同乗指導を任されることを、上の等級に上がる条件の一つにしました。教える側に回ることを、仕事の一部として認める形です。
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2024年6月〜8月評価と報酬の決め方を変える
評価は年2回とし、所長の印象ではなく、運行記録、事故とヒヤリハットの記録、同乗指導の実績を材料にしました。報酬は等級に応じた手当を厚くし、残業が減っても手取りが急に落ちないよう、2年間の調整給を設けています。新旧の給与は、ドライバー全員について1人ずつ試算して確かめました。
試算で手取りが下がる人については、その理由と、次の等級に上がれば取り戻せる道筋を、所長が面談で示せるよう資料にまとめています。数字の説明を人事部だけに任せないためです。
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2024年9月〜10月全営業所で説明会を開く
説明会は、ドライバーが出やすい早朝と夕方に開きました。前に立つのは当社ではなく、各営業所の所長です。出そうな質問とその答えを、所長と一緒に事前に用意しました。
説明会で出た質問は、その週のうちに一覧にまとめ、答えとあわせて全営業所の所長に共有しました。同じ質問に、営業所ごとに違う答えが返らないようにするためです。
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2024年11月〜12月
評価者研修と、 運用の手引き 所長と副所長を対象に、実際の運行記録を使って評価を付ける練習を重ねました。評価の手順と、判断に迷う場面の考え方は、運用マニュアルにまとめています。新制度は予定どおり、2025年1月に始まりました。
成果
年間離職率は、支援前の2023年の14.2%から、新制度の運用1年目にあたる2025年には8.9%になりました。とくに、入社3年以内のドライバーの離職が減っています。
面談の中身も変わりました。所長は運行記録を手元に置き、次の等級に上がるには何が足りないかを、具体的に話すようになっています。後輩の同乗指導を自分から引き受けるベテランも増えました。
等級の表は、採用の面接でも使われるようになりました。入社した後に何をすれば給与が上がるのかを、応募した方に最初から具体的に示せるからです。
制度の見直しは、今後、人事部が自分たちで続けられるようにしています。等級の定義と評価の基準を、毎年の運用の結果を見て改める手順まで、マニュアルに書き込みました。評価の時期の前には、所長どうしで付け方をすり合わせる場を、人事部が開いています。
お客様の声
制度をつくること以上に、所長が自分の言葉で説明できるところまで付き合ってもらえたのが大きかった。説明会で質問が出るたびに所長が答えているのを見て、これは回ると思いました。
以前は、評価の時期になると何を書けばいいのか迷っていました。いまは運行記録を見ながら話せるので、面談は短くなり、中身は濃くなりました。
次にどの免許を取れば上の等級に行けるのかが、表を見れば分かります。後輩を乗せて教えることが評価に入ったのも、正直うれしかったです。
担当者より

久世 陽子パートナー
ドライバーの皆さんが求めていたのは、急な昇給よりも、上がり方の見通しでした。等級の言葉を現場の方と何度も書き直したことが、説明会での納得につながったと考えています。制度は、説明する人が自分の言葉で語れて初めて動きます。前に立ってくださった所長の皆さんに、改めて感謝しています。

柚木 真央シニアコンサルタント
評価者研修では、同じ運行記録を所長の皆さんに評価していただき、付けた点の違いをその場で話し合いました。基準が同じでも、記録の読み方がそろうまでには時間がかかります。いちばん時間を使ったのは、そこでした。


